気まぐれヒーロー




「その……好き、なんです、はい」


情けないことにもう一度言い直したものの、すっかり意気消沈。

昨日さんざん、鏡に向かって練習したのに。

「すきすきすきすきすきすきすきすきすきすきす……キス!?」とか、一人で赤面してたのに。

何なんだ私。


「好きって……花鳥が俺を?」


信じられないといった顔で、田川くんは目をぱちくりさせる。

恥ずかしすぎ……逃げたい……。
でもまだダメだ、結果聞いてないし。

私はこくんと、頷いた。



「ぷっ」



ん?「ぷっ」?
突然田川くんが吹き出した。


「ははははっ、マジかよ!お前さ、鏡見たことあんの?」


……え?

彼の言っていることが、すぐには理解できなかった。

歪んだ笑みを浮かべ、田川くんはさも可笑しいというように、私を見下ろしている。

鏡なら嫌というほど昨日見ましたけど。
そんなこと、言えるわけもなく。



「ありえないっつーかさぁ……ブスに告られても嬉しくねーし」



その口元にはあの爽やかな笑顔ではなく、憎らしい笑み。


知らない。
私はこんな彼を、知らない。

誰にでも優しくて人気者だった彼は、今や真逆の顔を見せている。

頭の奥でガラガラと音を立てて、彼の輝く姿が崩れていった。

知ってしまったんだ私は。彼の本性を。

アイドルの仮面を剥がせば、出てきたのは最低な男だった。なんなのこのオチ。

わかってるよ、あんたに言われなくたって私がブスだってことくらい。

でもさ、もうちょっと言い方ってもんがあるんじゃない?



「え、待って!ガチで告るとかウケるんだけど~!!」 



茫然と立ち尽くす私の耳に、田川くんではない誰かの甲高い笑い声が刺さった。

女の子のものだった。


屋上には、私と田川くんしかいないはずなのに。

ああ、私、あまりのショックに幻聴まで聞こえてるんだ……。末期だな。


なんて落ち込んでいると、屋上の出っ張り──つまり校舎の中から屋上に出るドアを囲ったコンクリートの建物の影に、誰かが隠れていたらしい。