「ねえハイジ。あんたって分身の術が使えるのね」
赤ハイジにちらっと視線を投げて緑ハイジに戻せば、彼らは二人で目を見合わせ、緑ハイジがげらげら笑い出した。
「お、おい……俺はいつの間にかニンジャにされてんぞ!!」
「ちょい待ち、分身て!俺の方がイケメンやろーが!!」
赤ハイジが顔をしかめてずいっと迫ってくるから、私も合わせて一歩二歩、下がった。
「あの、誰……?」
ちーん。
そんな鐘の音が響いた……ような気がした。固まる赤ハイジ。
「ぎゃははは!なんて顔してんだケイジ!!ショックか、ショックなんだろ!!仕方がねえ、諦めろ。こいつは俺のことも知らなかったんだからよ」
口を開けて硬直している赤ハイジの背中を、バシバシ叩いて嬉しそうな緑ハイジ。
この人達のやり取りに、私はついていけなかった。
「ご、ごめんなさい……どうも私、そこらへんの事情にうといみたいで……」
緑ハイジも学校中が知っているような有名人だった。
だからきっと、同じ顔をしたこの赤ハイジも名は知れているんだろう。
でもやっぱり私は知らなかったし、見たことがなかった。
なんだかその悲愴感漂う死んだ魚の目をした彼が気の毒に思えて、私は一応赤ハイジに謝っておいた。

