「け、慧次だろ?──っぐ、!!」
田川の友達がケイジくんの名を口に出したのと、ほぼ同時だった。
ケイジくんは彼の顔を片手でガッと掴み、鼻から下を覆ったのだ。
当然口も塞がれて、田川の友達は喋ることもできない。
「……、っ」
「おい、馴れ馴れしく呼び捨てにしてんちゃうぞ」
ケイジくんの手を剥がそうともがくも、余りのケイジくんの眼光の鋭さに怯んだ田川の友達は、ついに震えだしてしまった。
「ケ、ケイジくん!!」
ヤバイ……気がした。
今のケイジくんは一触即発というか、些細なことでも感情を爆発させてしまいそうな危険を孕んでる。
原因のわからない怒りが、彼の中で蠢いている。
いつの間にか、周囲には人が集まりだしていた。
遠巻きに、巻き込まれないように、こそこそ話している生徒達の姿が目につく。
田川と本城さんも、ケイジくんの行動に言葉を失っていた。
「もっかい言ってみろ」
「──、」
言えるわけないのに。自分で相手の口を塞いでるのに。
ケイジくんはわかってて、無理難題を押しつけていた。愉しむように。
僅かに、背筋が震える。狂気じみた彼の瞳に。
「お前らどけ!邪魔なんだよ!!」
どうにもできず立ち尽くしていると、人だかりを掻き分けてハイジが顔を見せた。
「ケイジ、何してんだ!」
ケイジくんのもとに駆け寄り、田川の友達とケイジくんとの間に入ってハイジは彼らを引き離した。
完全に怯えきった田川の友達はガチガチと顎を鳴らし、立とうとしない。いや、立てないんだろう。
腰を抜かしたみたいだった。
「何やってんだお前……なんでこんなヤツ相手にしてんだよ」
理解できないというように、眉間に皺を刻み目を見張るハイジ。
一度田川の友達を見下ろした後、真剣な眼差しをケイジくんに突きつけた。


