気まぐれヒーロー




クスクスと不快な笑い声を含ませながら、隣の教室から出てきたのは──

本城咲妃だった。


その後ろには、あの日と同じ笑みを浮かべた田川。

二人並んだ顔を見た瞬間、屋上での光景が脳裏をかすめる。


そうだ、この男子は田川とよく一緒にいるヤツだ。


だから、私にわざとぶつかってきたんだ。



「マジ?やっべ~、俺ワルモノになっちゃうじゃん」



ゲラゲラと下品な笑い声が、廊下に響き渡る。


もう、大丈夫だと思ってた。傷は塞がったんだって。

田川のことが好きなわけじゃない。
どうしてこんな男を好きだったんだろうとさえ、思う。


それでも……あの頃の想いを平気で踏みにじられたことが、ショックだった。


悪意を持って「ブス」って言われて、傷つかない女の子がいると思う?

私だって、傷つく心はあるんだよ。


塞がりかけた傷を再び抉られるようで、言い返せない自分が惨めだった。


何でもないフリして通り過ぎよう。

そう……何でもないコトなんだ。



本城さんたちに背を向け、足を踏み出そうとしたその時だった。



「ってぇ!何すんだ、よ……」



ドサッと鈍い音が響いた。

反射的に振り返ると、さっき私に悪態をついてきた男子が、床に尻餅をついている。


そして、
その前に立っているのは、真っ赤な髪のヤンキー。


ハイジと同じ顔の、彼。



「あー、すまんすまん。チビすぎて見えんかったわ」



ゾクリとするような笑みを浮かべながら、
尻もちをついている男子を見下ろしていたのは、ケイジくんだった。