気まぐれヒーロー



どうしよう……逃げ切れないよね……。
大人しく捕まったほうが楽かな。

っていうか、なんで私がこんな目に……。
あの緑め!!


なんてハイジに恨みを抱きながら歩いて、校舎裏へと進んでいく。
薄暗くて日の当たらないそこは、あまり人気(ひとけ)がない。草が好き放題生えている。

とりあえずここでやりすごそう……と思っていたら。


「……っ、」


目の前に、絡み合う男女が一組。

女の子を壁に押しつけ、男の子が彼女にキスをしている。
それもかなり濃厚な……でぃ、でぃーぷきすというやつだ。

どうしよう……すごいとこに出くわしてしまった!!

早く立ち去らないと、お邪魔虫だ。
覗き魔と思われてしまう!


なのに、私の足は動いてくれなかった。
目の前の光景が刺激的すぎて、体が硬直してしまっていたのだ。

心臓がバクバクいってるのが、自分でもわかる。


早く逃げろ私!

早く早く早く………

…………


「きゃあ!やだ、誰!?」


……見つかった。

突っ立っていた私に気づき、女の子は驚いて男の子からバッと身を離す。

彼女は恥ずかしそうに、頬をほんのりピンクに染めていた。
けれどそれ以上に、私の顔はきっとゆでダコ並みに真っ赤っかだったと思う。


「んあ?」


そして不機嫌そうに、男の子も私に目を向ける。


「え……うそ、なんで……!?」


男の子の顔をはっきり捉えて、ディープキスを目撃したことよりも大きな衝撃を受けることになった。



だって男の子は……


ハイジに、そっくりだったから。


ううん、そっくりなんてもんじゃない。ハイジそのものだった。


ただ一つだけ違うのは、男の子の髪の色は──



赤。


それだけだった。