「お前があんまり遅えから犬の散歩してたじーちゃんに挨拶したら、じーちゃん驚いて入れ歯噴き出しちゃってよォ。ちょっと気の毒なことしちまったな〜」
「……疫病神ね、あんた」
「何でだよ、こんなイイ男と並んで歩けるんだ。ラッキーだろーが」
「アンラッキーよ。実に不愉快だわハイジくん」
「可愛くねえなぁももちゃん。そんなんだから男にモテねえんだよ。つか、お前髪ボサボサ」
「えっ、ちゃんとといたのに!」
きっと雑に着替えたからだ。
髪の毛がまた爆発してしまったらしい。
ハイジの指摘に手グシで直そうと私が頭に手をやる前に、スッとハイジの手が顔に伸びてきた。
ビクッと反射的に肩が跳ねて、身を竦めてしまう。
ハイジは私よりもずっと長くて骨張った指で、私の髪の毛を梳いて整えてくれた。
割れ物に触れるように、優しく扱ってくれるのがなんだかこそばゆくてむずむずする。
髪の毛を男の人に触られるのって、どこか恥ずかしい。たとえ相手がハイジであっても。
狭まった距離のせいで、ハイジがぐっと近くなる。
私の目線は、ハイジの胸板辺り。
これがヤツと私の身長差。改めて、背高いなと思った。
首を上に向けなければ、目が合わない。
私が見上げれば、ヤツは口の端をニィっと吊り上げた。
「俺にドキドキしちゃった?ももちゃん」
「っ、!な、何言ってんのそんなわけないじゃん!!イライラはするけどね!!」
「赤くなっちゃって。そーいうとこは可愛いよ」
なんだろう、ヤツのこの余裕ぶった態度……!!
コイツ、人をからかうのが趣味なんだろうか。
悔しい……けど、言い返せない。
ほんの、ほんの一瞬だけドキッとしたのは事実だから。
でもそれは男に慣れてないだけで、別にハイジを意識したわけじゃないし!
今日は太陽が空で輝いていい天気だっていうのに、「行こーぜお姫さま」と歩き出したハイジの後を、私は天候とは反対に晴れない気分でとぼとぼとついていった。


