ジローさんとのおさんぽタイム。
場所は屋上に決まってて、彼は私の手を引いてそこにいつものように歩いていく。
まだ首輪にリードを着けられて、引っ張られるよりはマシだなと思った。
誰かいるかもしれないから私が階段下で待っていると言うと、「つまんねえこと気にしてんじゃねえよ」とぶつくさ文句を垂れながら、ジローさんは一人で屋上へ上がっていく。
そして彼が扉を開けるとその数秒後には、逃げるように数人の生徒達が屋上から戻ってきて階段を下りてきた。
「タマ、空いたぞ」
ひょこっと扉から顔を覗かせて、階段の下にいる私に声をかけるジローさん。
いや、あんたが空けさせたんでしょうがと胸の内でツッコんで、私も屋上へ向かった。
こういった感じで、私達の『おさんぽ』は始まる。
「ジローさん、脅してみんなを追い出しちゃダメですよ」
「脅してねえよ、アイツら俺の顔見たら勝手に出ていくんだ。俺は何もしてねえ」
……さすがキング白鷹次郎。
みんな、ジローさんが水着ギャルを見ただけで鼻血を噴いちゃうヘタレなにーちゃんだと知ったら、どう思うんだろう。
ごそごそとジローさんはポケットに手を突っこんで探ると、カラフルなボールを取り出した。
それを彼がぽいっと投げると、ボールは屋上の端にコロコロ転がっていった。
そしてジローさんは隣の私を、何か言いたげに見下ろしてくる。無表情で。
「……わかりましたよ」
ジローさんの意図を察して、私は渋々ボールのところへ歩き出した。
カラーボールを拾ってジローさんのとこに戻ると、それを彼に手渡す。
いわゆるスキンシップなのだろう。犬と人間との。
私は“遊んでもらっている”のだ、ジローさんに。
不本意だけれども!
ボールを受け取るとジローさんはうすーく笑って、頭をナデナデしてくれた。
大きい手で撫でられると、ちょっぴり恥ずかしいけどとっても幸せな気分になってしまう。
ジローさんの手が、温かいから。
私はありもしないシッポをパタパタ振って、こっそり喜びを表現していた。

