「イヤだ」
不意にぽつんと呟いたジローさんの声に、新チャンピオンになって感極まっていた私は現実世界に引き戻された。
「え?」
「そんなん許さねえよ」
「……ワガママです」
「自分に正直なだけだ」
む……なんてヘリクツ!
「だから、もうしねえよ」
……ん?
ちょっとふてくされ気味に、私には目を合わさずジローさんは話を続けていく。
「俺はお前と散歩に行きてえし、おてもしてくれねえとイヤだ。頭も撫でてえし、首輪も着けてるとこ見てえ。嬉しそうにしてるとこが、見てえんだ」
ジローさん……すねながら、照れながら、そんなことを言わないでください。
私、なんだかちょっと……
「お前に嫌われるくらいなら、舐めろなんて言わねえし俺も舐めんの我慢する。そっちの方が、拒否されるよりマシだ」
ちらっと一回私を見て、またジローさんは目を伏せる。顔を赤くしながら。
何それ。
ずるい。
そんなこと、そんな可愛い態度で言われたら──私の方が、ノックアウトだ。
たとえ縄で縛られてても、口にした内容が普通に聞けばおかしいことだったとしても……
私の胸には、直球どストライクだ。
ジローさん……
私……
やっぱりあなたの犬になりたいかも、しれない。
こうして、私はまんまとジローマジックにやられ、ジローさんの犬を続行することになってしまった。
大喜びしているハイジとケイジくん。
私をえっちな発言でからかってくるトラさんの声も、耳に入らない。
しばらくの間、私はぽわ~っと頭にお花を咲かせ、ジローさんにイイコイイコしてもらう妄想に浸っていた。
これが記念すべき、第一回目のジローさんとのお散歩だった。
私が『タマ』としての一歩を、踏み出した日だった。

