ホットとは、到着後すぐに出発する段取りの略語。櫂は心筋梗塞の疑いのある女性を搬送した病院の医師に引き継ぐと、そのまま次の患者の元へと飛び立った。
この日は出動要請が通常よりも多く、櫂は沖田とともに日没まで八件もの現場へ飛んでは治療を繰り返した。その後も、普段外来に出ている時にはあまり手をつけられない申請書や報告書の記入などの事務作業があり、一日があっという間に過ぎていく。
「お疲れ」
ようやく仕事を終えて更衣室で着替えていると、沖田がやってきた。やはり彼の表情にも疲労が滲んでいる。
「あぁ、お疲れ」
櫂が返事を返すと、沖田は大きなため息をついた。
「大人ならいいってわけじゃないけど、子供はしんどいな」
日没間際に搬送した児童のことを指しているのだろう。今日は特に出動が多くて体力的にも疲れていたが、ダメ押しはバイクと小学生の接触事故だ。事故にあったショックと怪我の痛みで泣く少年をなだめながらの処置は、こちらも精神力を削られる。
