ヘリは十分もかからずに現場に到着し、傷病者を後部ハッチから収容する。
都心ならば救急車の方が早い場合もあるが、交通渋滞や道路状況に影響されない点や、初期治療を迅速に行える点でもドクターヘリは有用だ。
櫂はすぐに傷病者の女性の全身状態をチェックする。背中が痛むのは心筋梗塞を疑う症状のひとつだ。エコーでも同じような結果がみられたため、病院を選定して搬送する段取りをつける。
すると、ヘリのパイロットからヘッドセット越しに声が掛けられた。
「先生、重複です。四十代男性、作業中に三階から落ちて全身打撲。意識ありです」
ヘリ内部ではエンジン音で声が届きにくいため、乗務員はみんなヘッドセットを着用している。櫂はズレかけていたヘッドセットを直し、すぐに応答した。
「燃料は?」
「問題ありません」
「よし。ホットで向かおう」



