二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~


仮にも病院で働く人間の言うことではないし、必死に働く人を貶めて笑うなんて非常識にも程がある。怒りや苛立ちが湧いたのと同時に、こぶしを握りしめて耐える千咲の後ろ姿に気がついた。

この場所で反論して騒ぎを大きくするのは得策ではないと考えたのだろう。聞こえないふりを貫くその姿は健気でもどかしく、けれど櫂の目にはとても美しく映った。

そして、自分が彼女を守りたい。そう反射的に感じ、気づいたら彼女を庇う言葉が口をついていた。

『誰よりも早く傷病者のもとに駆けつける彼女たちに敬意を払えないのなら、病院で働く資格はない』

櫂の言葉を聞いた千咲は少し気まずそうにしながらも小さく微笑み、会釈して救急車へと乗り込んでいく。傷病者に接する凛とした姿と対称的に、その儚げな笑みが櫂の心に深く刻み込まれた。

決定的に彼女を印象づけたのは、それから三ヶ月ほど経ったある日。事故に巻き込まれた少年を搬送してきた直後だった。

少年は全身状態がかなり悪く、救急医として経験を積んでいる櫂でもその惨状に顔を顰めたくなる程。

千咲は唇を引き結び、大きな猫目にうっすらと涙を浮かべながら少年の処置をしていたが、それでも手はテキパキと動かし、ストレッチャーの横で情報を伝えてくる。