二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~


渋々引き下がった沖田に苦笑しつつ、櫂は窓の外へ視線を移した。

(千咲に惹かれたのは、もう三年も前か。あの時も熱中症の患者だったな)

彼女を初めて認識したのは、櫂が総合病院で勤務していた頃。八十代の女性が搬送されてきた時だった。

熱中症で倒れた女性に処置を施しながらしきりに声をかけていて、汗だくのヘルメットの下は薄化粧ながらとても整った顔立ちだった。

テキパキと動く姿、情報を正確に端的に伝えてくる様子からも、彼女がいかに真摯に救命士という仕事に取り組んでいるかがわかる。

しかし、美人というのは周囲からの嫉妬がつきものらしい。

『ヘルメットに長靴って、女捨ててるよね』
『わかんないよ? ああやって男所帯に紛れ込んで、か弱い振りするのかも』
『やだ、あざとーい』

クスクスと笑う声が聞こえてきて、櫂は思い切り顔を顰める。声の主は、総合病院の事務の女性たちだった。