「さっさと帰国しないと、未依に逃げられるぞ」
八つ当たりだとわかっていても、つい皮肉を言いたくなる。ふたりの離婚話がきっかけで千咲は櫂の前から姿を消し、妊娠と出産という大変な経験をひとりで乗り越えなくてはならなかったのだ。
『⋯⋯まさか、未依に男でもできたのか』
「さぁな」
『おい、どういうことだ。お前がそばにいながら――』
「とにかく、今度こそちゃんと帰ってこいよ」
言うだけ言って電話を切る。
向こうは仕事を終えて電話をしてきたのだろうが、こちらはこれから出勤なのだ。
櫂は急いで身支度を整え、今日もひとつでも多くの命を救うため戦場へと向かった。



