保育園では少し人見知り気味なようだが、紬は櫂に対して満面の笑みを向けた。それがまるで親子の絆を示しているようで、千咲は目の前に広がる憧れていた光景に目を細める。
「あーうっ」
「うん。俺は須藤櫂。よろしく」
まだ言葉の出ない一歳四ヶ月の子供にもきちんと名乗る律義さに、千咲は図らずも笑ってしまった。張り詰めていた緊張の糸が、少しだけ緩む。
「あいっ」
すると、紬が握りしめてぐちゃぐちゃになったパンケーキを櫂に差し出した。きっと「どうぞ」をしているのだろう。近頃の彼女のブームで、よく自分が食べているビスケットや幼児用せんべいなどのおやつを分けてくれるようになった。
千咲にとって、おいしいものを共有したいという紬の行動は愛らしく、娘の食べかけだろうとよだれでベタベタのパンケーキだろうと躊躇わずに食べられる。
けれど、それを櫂に食べさせるのは申し訳ない。そう考えた千咲が「紬、これはママが食べてもいい?」と紬の意識を自分に向けさせようとしたが、一歩遅かった。



