すると、店の入口が開いた音がして、焦った様子の櫂が店内を見渡しているのが見えた。千咲が少し腰を上げて視線を送ると、彼はこちらに気付いて足早にやってくる。
「悪い、遅くなった。こっちから誘ったくせに、かなり待たせたよな」
「大丈夫ですよ。サイレンが聞こえましたし、急患かなって思ってたので」
救急医をしているのだから、そんなこともあるだろう。千咲がそう言うと、櫂は意表を突かれたのか、「ありがとう」と表情を和らげた。
そして、紬に視線を移し「こんにちは」と話しかける。
「うまそうなの食べてるな。えっと⋯⋯」
「紬、といいます」
千咲が内心ハラハラしながら紬を紹介する。彼の娘だと知られるわけにはいかないのだ。けれど、職場では見せない柔らかい笑みで紬に接してくれる櫂を見て、心臓がぎゅっと締め付けられる。
「紬ちゃんか、可愛い名前だな」



