視線を逸らして頷いたため、千咲は櫂が辛そうに唇を噛みしめたことに気づかなかった。
(これ以上話して、紬が彼の子だと知られるわけにはいかない)
そう思った瞬間、中庭に甲高い声が響く。
「ちょっと待って! 千咲の相手のクズ男って、櫂くんのこと?!」
そばで千咲と櫂のやり取りを聞いていた未依が、混乱したように大声を出した。
「ちょっ、未依!」
「⋯⋯クズ男?」
聞き捨てならないと眉間に皺を寄せる櫂を尻目に、未依が千咲の腕を取り、慌てたように説明する。
「ねぇ千咲。櫂くん、私が結婚してる人の弟で、幼なじみなの」
「⋯⋯えっ! そうなの?」
不自然な会話の間は、彼女の言葉を理解するのに時間がかかったせいだ。まさかの縁に、千咲は目を瞬かせる。



