彼の胸の奥にも、過去に助けられなかった患者に対する罪悪感が積もっていると千咲は知っている。それでも、今助けを必要としている患者に向き合い、命を取りこぼさぬよう懸命に努力している。
そのひたむきな強さに、救急医としての誇りに、千咲は今もまた魅了されていた。
学ばない自分にうんざりする。もしも今は離婚していたとしても、千咲と関係を持った時は既婚者だったのだ。
深入りしてはならない。そう決意を新たにして、千咲は顔を上げた。
「でも、今の私には紬がいるから。この子だけはなにがあっても守りたいし、幸せにしたい」
自身の恋なんて二の次三の次だ。千咲の母のように、自分のことばかりで子供を顧みないような母親には決してなりたくない。
だからこそ、もう櫂には会わない方がいい。紬が大きくなった時にも、父親はいないと伝えるつもりだ。その分、千咲がふたりぶんの愛情を注いで育てると決めている。
「ごめん⋯⋯千咲が会いたくないって言うのなら、私も口出しはしない」
「うん。ありがとう」



