二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~


頭を下げる千咲の横で、紬が同じようにぺこりとお辞儀をした。その愛らしい姿に、千咲は気持ちを持ち直す。

「あの、よかったら学校での祖母の話を聞いてもいいですか? 私は家での祖母しか知らないので、どんな先生だったのかなって」

糸井がお参りを済ませるのを待って教師時代の和子について尋ねてみると、糸井は笑顔で話してくれた。

「とにかく優しい先生でしたよ。声を荒げることもなく、いつだってあたたかく見守ってくれていました。思春期の生徒を見るのは大変だと身をもって知る今、なおのこと和子先生の偉大さがわかります」

千咲は頬を緩ませる。千咲の知る祖母そのままなのがなんだか誇らしかったし、誰かと彼女の話をできるのが嬉しかった。和子は紬が生まれる前の千咲にとって、唯一の肉親だったから。

「教師になったと伝えた時も、和子先生はすごく喜んでくれました」

和子には毎年たくさんの教え子から年賀状が届いていた。千咲が生まれる前からやりとりをしている相手もいたようで、それら全てに手書きのメッセージを添えていた。糸井も和子の影響で教師になったようだし、それだけ生徒から慕われていたのだろう。千咲はそんな祖母を純粋に尊敬していた。