「⋯⋯普段は、忘れてるつもりなのにね」
櫂と出会うまではまったく興味がなかったのに、今は完全に恋愛に囚われている。
日々の生活や子育てに精一杯で、櫂のことを思い出している余裕などない。けれどふとした時、あの夜を思い出してしまうことがある。
『全部吐き出して、お祖母様のことを素直に悲しんだらいい』
『君は頑張ってる。もう自分を責めなくていい』
彼が思い切り泣かせてくれたおかげで、千咲は救われた。あの優しさがすべて、女性を口説くためだけの偽りだったとは思いたくない。
永遠の愛なんてないと嘯きながら、それでも彼のことを心のどこかで信じたい自分がいる。
先日も、緊急時だったにもかかわらず、櫂の真剣な眼差しに心が動いた。



