未依といい、田上をはじめとする職場の先輩たちといい、自分は周囲の人に恵まれているとつくづく思う。
千咲はふわりと微笑み、話題を変えた。
「それより、これを届けに行きたいんだ」
「それ、なぁに?」
「その傷病者さんの落とし物。彼、おばあちゃんの昔の教え子だったの。この手帳に、おばあちゃんから貰った言葉を書き留めてくれたみたい。大切なものだと思うんだけど、拾ってからずっと返しそびれてるんだ」
千咲は手に持った糸井の手帳に視線を落とす。彼の見舞いに行きたいが、櫂に会ってしまったらと二の足を踏んでいる間に一週間が経ってしまった。
「まだ、忘れられない?」
そんな千咲の心情は、未依には筒抜けだったらしい。好奇心や相手に対する怒りではなく、心配してくれているのだとわかる。
静かに問われ、千咲は俯いたまま自嘲するように小さく笑った。それを肯定と受け取ったのか、未依が気遣わしげに眉を下げる。



