「うん。総合医療センターってフライトスーツの背中に書いてあった」
未依は看護師で、糸井が搬送された総合医療センターで働いている。
彼女には、以前千咲が救命士として働いていた頃に知り合ったドクターが紬の父親だと話していた。既婚者と知らずに一夜を過ごし、その事実を知って彼の前から姿を消したという顛末まで洗いざらい白状させられたが、櫂の名前だけは決して出さなかった。
医師や看護師など医療関係者の世界は、思っている以上に狭い。現に、櫂は以前勤めていた大学病院から総合医療センターへと移っているようで、未依の同僚に当たるのだ。
「救急科でフライトドクターとして勤務している医師は、たぶん十五人もいないはず。それに――」
救急科のドクターを思い出しているのだろう未依に、千咲は釘を刺す。
「未依、探したりしないでね。私も、あの人に紬のことを話すつもりはないから」
「どうして? 結婚してるのを隠して千咲を傷つけた張本人なんだから、会って慰謝料でもなんでもふんだくってやったらいいのに」
まるで自分のことのようにぷんぷんと怒る未依に、千咲の心は癒やされる。



