それだけは、櫂以外の誰にも話していない。
千咲は曖昧に微笑んでお礼を言うに留めたのだった。
* * *
「紬ちゃんの父親と再会した?!」
九月下旬の土曜日。今日は友人の須藤未依が自宅に遊びに来ている。
彼女とは高校時代の同級生で、入学当初から仲がよかった。高校卒業後は千咲は専門学校、未依は大学と進路が別れてしまい、なんとなく疎遠になっていたが、一年ほど前に偶然再会し、それ以来頻繁に会うようになったのだ。
女性にしては長身で派手顔の千咲に対し、未依は小柄で年齢よりも若く見られる童顔だ。性格も、しっかり者の千咲と猪突猛進タイプの未依で正反対だが、学生時代から不思議とウマが合う。
どちらかと言えば同性からやっかみの対象として扱われていた千咲だが、未依だけはそういった偏見を持たずに接してくれた数少ない友人だ。彼女の笑顔は太陽のようで、学生時代は何度も救われた。



