二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~


「お、今日はハンバーグか」
「田上さん。いつも人のお弁当を盗み見るの、やめてください」
「わりぃわりぃ。腹減ったんだよ」
「お疲れ様です。今日も要請多いみたいですね。熱中症ですか?」
「あぁ。九月っていっても、まだまだ暑いからなぁ」

田上も去年、消防署から本部へと異動になった。面倒見のよさを買われ、警防部救急課のチーフとしてその手腕を発揮している。

「そうですね。予防課と連携して、熱中症予防の啓蒙活動をもっと頑張ります」
「おう。それもいいけど、子供のいい預かり先が見つかったら、いつでもこっちに戻ってこいよ」

彼には二年前に事務に異動する理由として、妊娠した事実を告げている。当時は未婚で子供を生むという千咲をひどく心配し、子供の父親にも怒りを滲ませていたが、千咲の出産の意志が堅いと悟ると、『いつでも相談にのるから』と言ってくれた。

(すごくありがたいけど、私はもう救急車には乗れない……)

紬を育てながら二十四時間勤務の救命士を続けるのは難しいという側面もあるが、一番はやはり就業中に祖母を亡くした過去がトラウマのように尾を引いている。