それでも櫂と過ごし、昨晩だけでも気持ちが軽くなったのは事実だ。 『そういう時は、ただ『悲しい』『寂しい』って泣くだけでいいんだ』 『大切な人を失ったことを悲しむのに、資格なんて必要ない』 男性としては誠実ではないかもしれないけれど、あの言葉に嘘はないと思いたい。 千咲は何度も大きく深呼吸をすると、ベッドの脇に置いてあった服を手早く身につける。 (さようなら、須藤先生) 彼がシャワーを浴びているのを確認し、千咲は音を立てずに部屋から逃げ出したのだった。