二年前に他界した祖母と、まだ千咲が幼い頃に亡くなった祖父が眠る公園墓地は、バス停から子どもの足で十五分程の場所にある。
霊園の入口でお花と線香を購入し、掃除用具を借りて墓石を綺麗にする。見様見真似で小さな手を合わせる紬と一緒にお参りを済ませたところに、ひとりの男性がやって来た。
「こんにちは」
真っすぐにこちらに向けられた挨拶に、驚きつつも「こんにちは」と返す。男性は四十代後半くらいだろうか。見覚えはなく、千咲はつい首をかしげた。
「もしかして、和子先生のお孫さんですか?」
和子とは千咲の祖母の名だ。祖母は定年までずっと中学校の教師をしていた。先生と呼ぶからには、彼は祖母を知っているのだろう。小さく頷くと、額に汗を滲ませた彼は嬉しそうな笑顔を見せた。
「糸井将人といいます。和子先生は僕の恩師で、先生に憧れて今は僕も中学の教師をしています。葬儀に参列できず、すみませんでした」
「いえ。板倉和子の孫の、千咲です。お参りくださりありがとうございます」
祖母が亡くなった時の事を思い出すと今でも胸が苦しくなり、罪悪感に押しつぶされそうになる。あの当時はいっぱいいっぱいで、周囲に祖母が亡くなった連絡もほとんどできなかった。



