「ずっと決めてたって⋯⋯俺はなにも聞いてない」
焦燥と苛立ちが滲む櫂の声に、千咲の心臓はドクドクと嫌な音を立てる。
他人の電話に聞き耳を立てるなんて、祖母が見ていたら行儀が悪いと叱られるに違いない。
けれど、千咲は聞かずにはいられなかった。嫌な予感がしていて、それを払拭しないと到底安心できない。祈る思いで、櫂の口から出る言葉を待った。
「⋯⋯あ、いや、病院にいる。とにかく、一旦落ち着いて。離婚の話、父さんたちにはまだするなよ。今日帰ったら話そう」
目の前が真っ暗になった。
千咲は目眩を起こす頭を押さえ、まだ電話を続けている櫂に背を向けてふらふらとベッドに戻った。
悪い予感というものは、なぜこんなにも当たるのだろう。



