千咲の男性経験は、遠い学生時代に一度だけ。それも若さゆえのたどたどしいもので、痛かったという記憶しかない。
緊張からわずかに身体を震わせた千咲に、櫂は「怖い?」と尋ねた。
「怖くはないんですけど、うまくできるか不安で」
「そんなこと考えなくていい」
「先生、でも⋯⋯」
「櫂」
静かに、けれど拒否は許さないとばかりに端的に、名前で呼ぶように促される。
「櫂、さん?」
見上げると、彼の喉がごくりと鳴った。
「千咲」
名前を呼ばれただけで、小さな幸せが胸に降り積もる。
そこからは、ただただ夢中だった。



