「せっかくできた縁を、これっきりにしたくない」
ついさっきまで祖母を想って泣いていたのに、こんな風に男性に胸をときめかせるなんて。自分がとても薄情な気がして、千咲は答えに窮してしまう。
「あの、私⋯⋯」
「ごめん。こんな時に言うなんて、いくらなんでも卑怯だよな。わかってたのに、君を前にしたら気持ちを抑えられなかった」
どんな傷病者が搬送されてこようと的確に周囲に指示を出している櫂が、珍しく余裕のなさそうな顔をしている。
そんな顔をさせているのが自分だと思うと、勝手に頬が赤く染まっていく。
(恋愛は苦手だって、ずっと避けてきたのに⋯⋯)
奔放な母のようになりたくなくて、どこか意識的に恋にのめり込むのを避けてきた。
恋も愛も永遠じゃない。いつか気持ちは冷めるし、必要がなくなれば切り捨てられる。それならば、初めから求めたりしない。そう思っていたはずだった。



