整った容姿をしていた千咲の母は恋多き女性で、千咲を生んだあともコロコロと恋人を変えていた。そのため、幼い頃から祖母の家に預けられることが多く、母が恋人と家を出ていったと知らされた時も悲しさや怒りはなかった。
それは、祖母が愛情をかけて育ててくれたおかげだ。
教師をしていた祖母は勉強も教えてくれたし、マナーなどにも厳しかったが、声を荒げて叱られたことは一度もない。いつも穏やかに笑っていて、『千咲がいるから、私は本当に幸せよ』と何度も伝えてくれた。
いつだったか、一緒に見ていたテレビで救急車が特集されていて、苦しんでいる人の元に一番に駆けつける救命士に憧れを抱いた。すると祖母は『大変なお仕事だけど、千咲ならきっとなれるわよ』と背中を押してくれたのだ。
千咲が幼い頃に亡くなった祖父が残してくれたお金があったとはいえ、女手ひとつで千咲を育てるのは大変だったに違いない。それでも祖母は、惜しみない愛情を注いでくれた。
優しくて、強くて、大好きだった。
「そんなおばあちゃんを、私は助けられなかった」



