「店だと思いっきり泣けないだろ。ここなら俺以外、誰も見てないし聞いてない。全部吐き出して、お祖母様のことを素直に悲しんだらいい」
千咲は目を見張った。
「まさか、そのために⋯⋯?」
「君の泣き顔を、他の誰にも見せたくなかった」
まるで独占欲を感じさせる発言に、鼓動が跳ね上がる。
「なにを言って⋯⋯」
「本心だよ。偶然出会えてよかった。こんな風に苦しんでいる君をひとりにしなくて済んだ」
どういう意味で言っているのかわからず、千咲が尋ねようとした瞬間。コンコンと控えめなノックが聞こえた。
「部屋を手配する時、ルームサービスも頼んだんだ」
櫂はそう言って、部屋の扉へ向かった。



