そう告げた彼に連れられてきたのは、名前は知っているけれど足を踏み入れたことのない高級ホテルだった。
エレベーターで上層階にのぼった点や、内装がとんでもなく豪華で広々としている点からも、かなりのグレードの部屋なのだと思われる。
千咲が今着ているのはコットン素材のシンプルなワンピースで、メイクは一切していない。薄暗いバーならともかく、高級ホテルにはあまりにそぐわない格好だ。
自分はとんでもないことをしているのではと、今更ながらに怖気づく。顔見知りとはいえプライベートで初めて会った男性とホテルの部屋に入るだなんて、普段の千咲ならありえない行動だ。
慣れないアルコールを飲んだが酩酊するほどではなく、思考力は残っていると思っていたけれど、実際はかなり酔っているのかもしれない。流されるようにしてついてきてしまったのが、なによりの証拠だ。
バクバクと大きく脈打つ心臓を押さえていると、櫂は小さく微笑んだ。
「下心がないとは言わないけど、すぐにどうこうしようってわけじゃない。だからそんなに怯えた顔をしないで」
「え⋯⋯?」



