「事故の時、彼が言ってただろ。『礼ならいつもの美味そうな弁当でいいぞ』って」
「あ、そういえば。田上さん、昔からおばあちゃんのお弁当をめちゃくちゃ羨ましがってたんですよ。今でもしょっちゅう人のお弁当箱覗いてくるし」
退院してすぐに、田上には改めてお礼のメッセージを送っている。それには『礼はいいから、早く怪我を治せ』とぶっきらぼうな優しい返信があったのみ。そもそも地方公務員は謝礼を受け取ることを禁じられているため、きっと田上なりのジョークだったのだろう。
「菓子折り渡すのはよくないし、私のお弁当でお礼になるかな」
「お礼になろうとなるまいと、君の夫は他の男に弁当を作るのを許すような器の大きい人間じゃない」
「⋯⋯え?」
千咲の脳裏に、以前の沖田のセリフが蘇る。
『あ、もし救命士に戻るのなら、あの男性には気をつけてくださいね。たぶん、須藤はめちゃくちゃ嫉妬深いと思うんで』
(これって、そういうこと⋯⋯?)
頬がぶわっと熱くなり、胸がきゅうっと甘く痺れる。



