櫂はそれだけ言うと、ウイスキーを口にする。強引に聞き出すわけでもなく、かといって突き放すわけでもない。ただ隣にいてくれようとする彼の真意はわからないけれど、その優しさに寄りかかりたくなった。
(ダメよ、甘えていいはずがない)
櫂とは単なる顔見知りであって、プライベートな話を赤裸々に話せる関係性でもない。そうブレーキをかける理性的な自分は、徐々に思考の端に追いやられていく。
多少のことはひとりで乗り越えられるし、これまでもじっと我慢することで様々な苦難に耐えてきた。けれど、今夜はうまく感情をコントロールできない。そのくらい千咲の心は限界で、弱音を吐き出さないと壊れてしまいそうだった。
どれくらい葛藤していただろう。千咲は水のグラスをぐいっと呷ると、俯いたまま小さな声で呟いた。
「⋯⋯祖母が、亡くなったんです」
ぽつりと零した声は弱々しく震えている。隣に座る櫂が、息をのんだ気配がした。



