ぽろりと一筋落ちた涙を、櫂の筋張った指先が拭う。
「それに、千咲が紬を蔑ろにするはずがない。子育てと恋愛は両立するんじゃないかな。母親だって女性だろ。紬を優先するのはもちろん、俺は千咲のことだってめちゃくちゃに愛して、どろどろに甘やかしたい」
ずっと母親は恋なんてしてはいけないと思っていた。けれど、それは違うと櫂は言う。
千咲は紬の母親であるのと同時に、櫂を愛するひとりの女性なのだ。それを両立させるのは難しいかもしれないけれど、彼となら――。
「⋯⋯擬音がなんだか不穏です」
「ははっ、本心なんだから仕方ない」
声を上げて笑ったかと思うと、櫂はふと真顔で千咲を見つめてくる。
「千咲。君が昨日聞きたかったのは、海外派遣のこと?」
「はい。ドクターヘリに乗っている櫂さんにとって、救急医療の先進国の現場を見られる絶好の機会ですよね。正直に教えて下さい。断ったのは、私たちと再会したからですか?」



