憧れていた櫂が目の前にいる。けれど、浮ついた感情は湧いてこない。むしろ反発心が芽生え、千咲はキッと櫂を見返した。
「先生には関係ありませんので、放っておいてください」
「そんな泣きそうな顔をしてる君を、放っておけない」
そう言って隣に座った彼は、自分のウイスキーと一緒に千咲のチェイサーを頼んだ。
「ほら、水飲んで。なにか悩んでるのなら、話したら少しは楽になるかもしれないよ」
突き放した言い方をしたのに、そんな風に言ってもらえるとは思わず、千咲は目を見開いた。優しく見つめられた瞬間、緩みそうになる涙腺を必死で堪える。
「泣きたいくらい辛いんだろ?」
祖母が亡くなって一週間。泣くほど辛いはずなのに涙が出なかったのは、自分には泣く資格さえないと思っているからだ。
「⋯⋯聞いて楽しい話じゃありません」
「楽しませてほしくて声を掛けたわけじゃないよ。どうしても話したくないのなら無理にとは言わないけど、そんな状態の君をひとりにしておきたくない。隣にいるくらいは許してほしい」



