すると、沖田は「あ、一応事情を知ってるんです」と笑った。
「といっても、詳しい話までは聞いてないですけど。競技場に飛んだドクターヘリに、俺も乗ってたんです」
「あ、あの時の看護師さん」
「はい。ふたりの間の空気が訳アリっぽかったんで、あれからすぐ須藤に問いただしたんですよ。あいつ言ってました、『今度こそ、絶対に逃さない。必ず彼女を幸せにしてみせる』って」
「櫂さんが?」
自分の知らないところでそんな風に言ってくれていたなんて、じんわりと胸があたたかくなる。
胸に手を当ててくすぐったさを噛み締めていると、沖田は身を屈め、内緒話をするように千咲の耳元に小声で言った。
「あ、もし救命士に戻るのなら、あの男性には気をつけてくださいね。たぶん、須藤はめちゃくちゃ嫉妬深いと思うんで」
「嫉妬?」
意味がわからず首をかしげたのと同時に、「沖田、近い」と不機嫌な声がした。
千咲が振り返った先にいたのは、開けっ放しになっていた個室の引き戸を後ろ手で閉めながら入ってくるスクラブ姿の櫂だった。



