「ふぇぇーっ!」
和室でぐっすり眠っていた紬が、突然大声で泣き出した。
「紬?」
慌てて隣の部屋に行き、彼女に異常がないかを調べる。熱も鼻詰まりもないし、どこか痛がっているような素振りもない。抱き上げると、ひっくひっくとしゃっくりをしながらも再び目を閉じる。
「怖い夢でも見たかな? 大丈夫、ママがそばにいるよ」
ゆらゆらと身体を揺らしながらトントンと背中をたたき、安心させるように何度も声をかけた。すると、すぐに規則的な寝息が聞こえてくる。
「母親の安心感は絶大だな」
「あまり夜泣きはしないタイプなんですけど、たまに夢見が悪いとこうやって起きるみたいで」
そして、そういう時は決まって背中スイッチが発動するらしく、布団に置くと再び目が覚めて泣いてしまうのだ。そのため、少なくとも三十分は抱っこして熟睡するのを待つ必要がある。
肝心な話をしていないが、土日が休日の千咲と違い、櫂は明日も仕事のはずだ。長い時間引き止めるわけには行かない。



