メイクをする時間はなかったけれど、せめて見られる格好に着替えた千咲は、櫂のために夕飯の残りを温めた。その間、櫂はじっと紬の寝顔を見ていたらしい。
「あの寝顔見てると、今日一日の疲れが癒やされるな」
寝室は居間と続きになっている和室で、紬はそこに敷いてある布団でぐっすり眠っている。相変わらず、大きなゾウを抱っこしたままだ。
テーブルに食事を並べると、櫂は礼儀正しく「ありがとう、いただきます」と手を合わせて食べ始めた。
職業病なのか、彼は食べるスピードがとても早い。気持ちいいくらいの食べっぷりだが、所作が上品なのでガツガツして見えない。そういう些細なことも、こうして再会してから初めて知る一面だ。
『食事の時の姿勢に品がでるのよ。千咲も気をつけなさい』
ふと、祖母からよく注意されたことを思い出した。
千咲の家の食卓はローテーブルのため椅子がない。櫂を見ると、あぐらをかいている背筋が伸びていて姿勢がいい。それがとても好ましく思えて、千咲は口元を緩めた。



