「一時帰国じゃなくて?」
「うん。うちの病院に戻ってくるみたい。だから、これを渡す時が来たなって」
バッグから取り出したクリアファイルを見て、千咲は息をのんだ。
「それ⋯⋯」
ファイルの中には、緑色の枠線で縁取られた【離婚届】と書かれた紙が入っている。【妻】の欄が記入済みであることから、未依の本気が伺い知れた。
「二年前、櫂くんに電話した時に勢いで役所に行って貰ってきたの。私もいい大人だし、いつまでも甘えっぱなしではいられないから」
学生の頃、未依は幼なじみのお兄さんが好きなのだと何度も聞いていた。
『カッコよくて頭もよくて、ぶっきらぼうだけど本当はすっごく優しいの。子供の頃から、ずーっと大好きなんだぁ』
彼に少しでも近付きたくて看護師を目指すのだと、キラキラした瞳で話してくれた。
恋愛に冷めた感情を持っていた千咲だが、未依の恋だけはうまくいけばいいと願うほど、恋する彼女は一生懸命で愛らしかった。



