「あーっ! ぱーぱぁ!」
「えっ、紬⋯⋯今、パパって言ったか?」
櫂は手で口元を覆って驚いているが、たぶんそうではない。まだ紬は言葉を話せないし、そもそも櫂をパパだと教えてもいない。喃語が『パパ』に聞こえただけだ。
「いえ、そう聞こえましたけど、呼んだわけではないかと……」
千咲がやんわりと否定したにもかかわらず、櫂は目尻を下げ、運転席から腕を伸ばして嬉しそうに紬の頭を撫でている。
「紬が初めてしゃべった言葉は『パパ』ってことか」
「あ、それはちょっとずるいです」
すかさず千咲がツッコむと、彼はおかしそうに声をあげて笑った。どうやら、本気で『パパ』と呼ばれたと思っているわけではないらしい。
櫂につられるように、紬もきゃっきゃとはしゃぐ。楽しそうなふたりを見ていると、それでもいいかと思えてくる。千咲の頬も自然と緩んだ。
(いつか、櫂さんを「パパ」って呼ぶ日が来るのかな)
そんな日が来たら、どれほど幸せだろう。
彼と家族になりたい。千咲は、心からそう思った。



