二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~


「これ⋯⋯」
「必要だろ。一緒に出かけてくれるって返事をもらってすぐに買ったんだ」

さも当然のように言うと、紬をそこに乗せて慣れた手つきでベルトを締める。車の中には紬が退屈しないようにと、たくさんのぬいぐるみやおもちゃが用意してあり、ダブレットには子供向け番組のDVDが流れている。

千咲がその気遣いに驚いている間に、櫂は反対側に回ると、今度は千咲のためにドアを開けてくれた。

「⋯⋯ありがとうございます」

エスコートに対してではない。こんなにも紬のことを考えてくれていたことに、千咲は大げさでなく感動していた。

千咲と櫂との関係性は、黙って姿を消してしまえば切れてしまうほど脆かった。肌を合わせたのはもちろん、ゆっくりと会話を交わしたのも、あの一日だけ。

そんな相手が生んだ娘の存在を唐突に知らされ、まだ一週間しか経っていないというのに、櫂は当たり前のように優しさを与えてくれる。

自分に優しくされるよりも、紬の存在を蔑ろにしないことの方が重要だと考えていた千咲にとって、櫂の振る舞いは理想的だった。

「行こうか」

感謝以外の言葉が出ない千咲に、櫂はなにも言わずに微笑んでくれた。