九月の最終日曜日。あっという間に櫂との約束の日がやってきた。
紬には『これから楽しいところにお出かけするよ』とだけ伝えている。まだ彼を父親だと伝えていないし、言ったところで理解するのは難しいだろう。
(これから櫂さんとの時間を過ごす中で、伝えるべきタイミングがきたら伝えよう)
紬を連れて玄関を出ると、櫂はすでに家の前にいた。車に背中を預けた格好で待っている彼に目を奪われる。スクラブに白衣を羽織る彼を見慣れていたせいか、私服姿がとても新鮮だった。
「おはよう」
呆然と見つめる千咲に気付いた櫂が、爽やかな笑顔を見せる。すぐに我に返り、千咲も挨拶を返した。
「おはようございます。紬もご挨拶できる?」
手を繋いだまま、屈んで顔を覗き込む。すると、櫂も同じように紬と視線を合わせるためにしゃがみ込んだ。
「紬、おはよう。俺のこと、覚えてるかな」



