高校生になって3ヶ月。私、土屋涼花には好きな人がいる。それは──……隣の席の、古田俊樹君って男子だ。


 特別イケメンとかではないけど(古田君ごめんなさい)、他の男子とは違って、物静かと言うか落ち着いていると言うか。どこか大人びた雰囲気のある人で。
 私はおっちょこちょいで、普段からよく転んだり、壁にぶつかったりしていて、そんなところを同じクラスの男子たちに見られる度、ギャハハと笑われたりからかわれたりして恥ずかしい思いするけど、古田君はそんな私のおっちょこちょいなところを見ても絶対に笑わなくて。それどころか「大丈夫?怪我してない……かな?」って、ちょっとおろおろしながら小さい声で聞いてくれる。
 そんな、優しくて大人びた古田君に、気づいたら恋してた。

 けど、私は子供の頃から人見知りというか、引っ込み思案というか。特に、男子とはろくに話すことができなくて。だから、古田君が折角こうして気にかけて声をかけてくれても「大丈夫です」って、真顔で素っ気なく答えてしまう。

 本当はもっとたくさん、古田君とお話ししたいのに……


 そんなある日の放課後。教室でひとり宿題をしてたら、古田君が教室のドアを開けた。古田君と目が合った瞬間〝ドキッ〞と、私の心臓が小さく跳ねた。それと同時に、ばっ!と古田君から視線を逸らせた。

 古田君だ……古田君だ!何か忘れ物かな?もしかして、私が今やってる宿題かな?

 宿題に集中しているふりをしながらそんなことを思っていると、古田君は私の隣の席……自身の席に来て、机の中をがさごそと探し始めた。ちらりと古田君の方を見ると、今私がやってる宿題を机の中から出していた。

 やっぱりそうだ!いや、そんなことより古田君と話すなら、誰もいない今がチャンスなんじゃないかな?うぅ~でも、何を話せばいいのか思い付かない!けど、古田君と話したいっ!

 私が勇気を出せずもたもたしている間に、古田君は宿題をスクールバッグに入れる。

 早く、古田君が行っちゃう!何でもいいから古田君に声かけちゃいなよ!頑張れ……頑張れ私!

 古田君はスクールバッグを肩にかけると、教室のドアの方に向かっていく。
 その時。

「……っ!あ、ああのっ!ふ、古田君!」

 ガタッ!と、私は勢いよく席を立ち、声を震わせながら古田君の名前を口にした。すると古田君は、くるりと私の方に振り向くと。

「え?び、びっくりした……どうしたの?」

 驚いたような顔をしながらそう言った。

「びっくりさせて、ご、ごめんなさい。あのその~……」

 制服のお腹の部分をぎゅっと握りながら、頭の中をぐるぐるさせる。

 どうしよう、とりあえず呼び止めたけど……なに話せばいいかわかんない。はっ!いや待って!呼び止めたのはいいけど、古田君は先を急いでるかもだし……!

「……?土屋さん?」
「ごごごごめんなさい!急に呼び止めちゃって!古田君今から帰るんだよね!?急いで帰らなきゃだよね!?」

 うわ~もうなに言ってるんだろ私!?恥ずかしくて死にたいよ!もうほんとごめん、古田君!!

 私がムダにわたわたしていると、古田君が〝クスッ〞と笑った。ガンっ!とちょっとショックを受けたのと同時に、古田君の優しい笑顔にドキッとした。

「ごめん笑っちゃって。土屋さんって普段クールで隙がない感じなのに、時々こうしてわたわたしたり、おっちょこちょいなところがあるな~って。あ、いや、貶してるとかじゃなくて、そういうところ可愛いな~って……」
「!?かわっ!?」
「あ!いや、かっ、かわいいってそういう意味じゃなくて!!そう言うところも好きだなって……!?いや違っ!!」

 顔を真っ赤にさせながら、今度は古田君がわたわたしている。

 ……え?今、古田君「好き」って言わなかった?え?でも違うって……ええ!!?

「ごごごごめ、かっ、帰りますね!?それじゃっ──」

 がしっ!と。
 気づいたら私は、帰ろうとする古田君の腕を掴んでいた。
 そして──

「あの……古田君、私その……古田君のことが……好き、です」

 古田君の腕を掴む私の手が、熱い。顔も耳も、火が出そうなくらい熱い。心臓が皮膚を突き破って出てきそうなくらい、ドキンドキンと胸の内側を叩く。
 すると。

「……っ、あのっ!ぼ、僕も……土屋さんのことが好き……です」

 声を震わせながら、古田君はそう言った。古田君が……古田君も、私のことが好きって……言った。

 嬉しくて泣きそうになりながら、私は声を震わせて言った。

「「付き合って……下さい」」

 すると、古田君も同時に私と同じことを言った。言葉も間も、震えた声も、私と古田君は一緒だった。

「フ……フフッ、同時だったね」
「……だね」

 可笑しくて嬉しくて、私は涙を溢しながら笑った。同時に、古田君も笑った。


 古田君の腕を掴んでいた私の手は、気づいたら古田君と手を繋いでいた────