魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 その日もエメラは会議室で熱弁を振るっていた。
 だが、その場所は魔獣界ではない。ここは魔界の王宮の城内の会議室だ。

「ですから、森の警備の協力をして頂きたいのですわ!」

 バン!! と両手でテーブルを叩き、エメラは正面の席に座る男を睨みつける。

「あぁ? それが人にモノを頼む態度か? 気に入らねぇ」

 腕を組み、エメラを見下すようにして構えるこの男こそ、魔界の王。魔王オランである。
 悪魔特有の褐色肌に紫の髪、赤の瞳。魔獣界の王妃アイリの父であり、アディの祖父であるが、見た目は20代くらいで異常に若い。
 悪魔は長寿で数万年生きるというから、見た目で実年齢は判断できない。

「そのお言葉、そのままお返し致しますわ。それに貴方は人ではありませんわよ、悪魔男さん」
「いちいちうるせえな、テメエもだろ、魔獣女」

 強気なエメラと俺様な魔王は馬が合わず、いつも何かと口喧嘩になる。
 ここで、魔王の席の側に立って控えていたディアが二人を仲介する。

「魔王サマ、落ち着いて下さい。エメラさん、お話は分かりました。後ほど警備の検討を致します」

 魔界でのディアは魔獣王ではなく、魔王の側近である。素直に対応できない魔王の代弁をする役割なのであった。

 決して魔界と魔獣界が不仲なのではない。エメラと魔王の性格が合わないだけなのだ。