魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 クルスの執念と執愛が世代を超えて、見事にアディの大切な『娘』という宝を奪い取った。
 これはクルスの意図的な逆襲なのか、今では毎日『見せつけられている』のはアディの方なのだ。

「あいつ、ローラに魅了(チャーム)でも使ったのか?」
「使えませんわ。クルスさんの魔力を封印したのはアディ様ではありませんか」
「……そうだった。くそっ!」

 悔しがるアディのセリフは、もはや負け犬のようであった。

「クルスのやつ刑期って事を忘れてないか? ずっと城に居そうだよね」
「まぁ、よろしいじゃありませんか」

 願うならば今度こそ、クルスには罪のない恋愛をしてほしい。

「エメ姉!! 悔しいから、もう一人子供を作るよ! 今度は男子で、立派な魔獣王に育てて……」
「まぁ、アディ様ったら。悔しいのではなく、寂しいのでしょう?」

 アディは寂しくなると無意識に『エメ姉』と呼んでしまう。子供が男子ならクルスに取られないとでも思ったのだろう。
 狂愛のアディと執愛のクルスのマウントバトルは永遠に終わりそうにない。

「見てろよクルス~! 今夜、あっという間にエメ姉を身籠らせるよ!」

 いつになっても、いつまでも、アディは変わらずアディなのであった。



 エメラとアディの娘、ローラ。
 その名は、エメラルドグリーンの花『イキシア・ビリディフローラ』から取った。
 花言葉は『誇り高い』そして『秘めた恋』。

 エメラのように誇り高く、幼い恋心を秘めて、ローラという花の蕾はいつの日か咲き誇る。
 その時に、この花畑でまた新たな『約束』が結ばれる。

―完―