魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 そんな日が続いた、ある休日の朝。アディはエメラを中庭へと連れ出した。

 朝の人気のない城の渡り廊下を、アディはエメラの手を引きながら急ぎ足で歩く。

「今日はね、エメ姉に見せたい物があるんだ」
「まぁ、何でしょうか」

 中庭へと出ると、そこは見慣れた景色とは違っていた。一面に敷き詰められた緑色の花々。中庭はエメラルドグリーンの花畑になっていた。
 エメラは感動のあまり、口と目を見開いたまま言葉が出せない。

「すごい……綺麗……」
「うん。エメ姉みたいな花でしょ? 『イキシア・ビリディフローラ』という花だよ」

 鮮やかなエメラルドグリーンで、その花の中心は黒。花言葉は『誇り高い』。
 凛とした芯の強さを感じさせながら咲き誇る姿は、まさに気高く美しいエメラの化身のようだ。

「緑色のお花畑は初めて見ましたわ。わたくしのために、ありがとうございます」
「うんうん、珍しい花だよね。でもプレゼントは、これだけじゃないよ」
「まぁ、他にもありますの?」

 エメラとアディは手を繋いで花を観賞しながら花畑の中を歩く。
 やがて花畑の中心に辿り着くと立ち止まり、向かい合う。
 緑色の背景に映えるアディの爽やかなブルーグリーンの髪が、朝日を受けて一段と光り輝いて見える。
 そしてエメラだけに見せる毒のないアディの笑顔は、まるで春風のように優しく温かい。

「ねぇ、エメ姉、気付かない?」
「はい、何がでしょう?」

 アディに見とれているエメラは、呆然としながら上の空で答えている。

「胸元、寂しくない?」
「胸元……ですか?」

 言われて胸元を片手で触れてみると、エメラは一気に意識が戻った。あるはずのものが、ない。

「え……!? ペンダントが……ありませんわ!?」

 アディから贈られた婚約ペンダントがない。寝る時だって肌身離さず身に着けていたのに。
 あって当然、すでに体の一部のように馴染んでいたので、なくなっていた事にすら気付かなかった。

(確か昨日の夜はあったはず……ですわ)

 懐妊してからは胸元よりも腹部を気にしていた。
 アディの魔力が込められた青い宝石のペンダントだけでなく、腹部からもアディの魔力を感じられるために、余計に気付くタイミングが遅れた。