魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 玉座に座るアディの目の前に立つと、必然的にエメラはアディを見下ろす形になる。アディはエメラではなく、隣の空いている王妃の席に視線を向ける。

「エメ姉も椅子に座ってよ」
「そんな、いけませんわ。そこは王妃様の椅子です、わたくしは……」

 エメラはアディと婚約したが、まだ王妃ではない。そもそも、その椅子は王妃アイリだけが座る場所だ。
 アディが鋭い金の眼光をエメラに向けたかと思うと突然、強い力でエメラの片腕を掴んだ。

「そこじゃないよ。僕の椅子に、だよ」
「え……きゃっ……!?」

 掴まれた腕を強引に強く引っ張られたエメラは体勢を崩し、アディの胸元に抱きつくようにして倒れこんだ。

「ふふ、座り心地はどう?」
「あ、アディ様……」

 アディの膝の上に乗る形でエメラは向かい合っている。同種族の証である金の瞳に互いを映しながら。

「言ったよね、僕が魔獣王になったら結婚しようって」
「で、ですが、それは、まだ……」

 結婚の条件は揃ったのに、エメラは何を戸惑っているのか……と考えて、アディは思い出した。

「あぁ、『掟』でしょ? そんなの簡単だよ」

 金色の瞳を細めながら、その唇をエメラの耳元に近付けていく。

「その掟、今ここでクリアしようか?」



 アディの言う、魔獣界の『掟』とは。
 魔獣界では特別な事情がない限り、正式に結婚を認められるには条件がある。
 それは『婚約中に懐妊すること』。
 希少種だけが住む魔獣界での『繁殖』を目的とした、絶対的な掟であった。

 魔獣界の王子・アディの、エメラに対する異常なまでの溺愛……いや狂愛は、ここから始まる。