魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 エメラは、なんとか全てが丸く収まるような解決法を模索し提案しようとする。

「アディ様、さすがに一生は……。せめて刑期を決めて下さいませ」
「ふーん。エメ姉は優しいね。そうだなぁ、じゃあ、僕たちの子供が大人になる頃まで」

 魔獣は長寿なので、それでも数百年という事になる。
 その時までクルスが真面目に側近として働けば刑期は終わる。そしてクルスにかけた封印の魔法も解いて自由の身となる。
 つまり、クルスが側近でいる期間が服役なのだ。
 なんとか、この形で話はまとまった。

「さーて。魔界の皆にも懐妊の報告をしなくちゃね。結婚式の準備に、ベビー用品も揃えなきゃ。忙しくなるよ~!」

 アディは声とテンションの高い独り言を言いながら部屋を出て行った。仕事の事は頭にないらしい。
 執務室に残されたエメラとクルスは気まずそうに顔を見合わせて苦笑いした。
 エメラは申し訳なさから、なんとかクルスを前向きにさせたいと思い声をかける。

「……こんな形になりましたけど、いつかクルスさんにも幸せは訪れますわ。ですから……」
「なぜエメラ様が僕を励ますのです? 心配いりません。僕の罪ですから、どんな罰でも耐えますよ」

 罪という言葉が、今もエメラの胸に痛く突き刺さる。
 愛する事は罪ではない。クルスを狂わせた原因であるエメラ自身にも罪の意識がある。
 だが、クルスには1つだけ疑問に思う事があった。
 クルスの魔力が封印されたという事は、クルスがかけた魔法は全て解けたはずなのだ。

「僕が封印したディア様の記憶も戻ったはずですが、なぜお変わりないのですか?」

 ずっと記憶喪失だと思われていたディアだが、今は封印が解けて過去の記憶を取り戻したはず。しかし話題にも出ないし、エメラとディアの関係に変化はないようだ。
 今度はエメラが切ない表情になり、どこか遠くを見つめながら語る。

「ディア様の記憶は関係ありませんわ。何も変わりませんのよ。わたくしの片思いだったのですから」

 ディアに恋をした昔のエメラは、今のクルスと同じ。単なる片思いで、ずっと追い続けていただけ。ディアの記憶に関係なく、今に至るまでの未来は変えられなかった。
 クルスはその事実を初めて知って、ため息をついた。

「そうでしたか。僕の行いは全て無駄足だった訳ですね」

 意気消沈したクルスを見ていると、エメラは自分の事のように物悲しくなる。