魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 アディが正式な魔獣王となってからは、生活にも様々な変化があった。

 まず、夜。アディがエメラに魅了(チャーム)の魔法を使わなくなった。いや、使う必要がなくなったのだ。

「アディ様、お願いします。今夜も抱いて下さいませ……」
「ふふ、エメ姉。すっかり僕の虜だね」

 夜になるとエメラの方から熱くアディを求めるようになったのだ。
 常時、魅了(チャーム)にかかっているようなものだ。

 毎日、アディの狂愛を受け入れ続けたエメラの心身は、魅了(チャーム)以上の中毒症状に侵されてしまったようだ。

 狂愛は伝染する。愛を与える側だけを狂愛と言うのではない。それを喜んで受け入れるならば、愛を受ける側も狂愛となる。

 さらに愛はエスカレートして、それは人の姿だけに留まらない。
 深夜の城の中庭の片隅で、番い合う二匹の魔獣の姿が目撃されたとか、されないとか……。
 それは魔獣プレイという名の……すなわち交尾であった。


 そんな熱い日々のおかげで、ついにその日が訪れた。


「どういたしましたの? アディ様」

 アディは裸体のエメラを膝の上に座らせて背後から抱きしめている。回した両手はエメラの腹部に触れている。
 これは毎日恒例の動作でエメラは慣れてしまったが、アディの反応がいつもと違う。何にも言わずに、ずっと触り続けているのだ。
 ようやくアディが小さく口を開いた。

「……魔力を感じるよ」
「え? それって……」

「エメ姉、ありがとう。新しい命だ」

 エメラの胎内に、アディの魔力が宿る事の意味。
 それは、アディの魔力を宿した新しい命が誕生したという事実。
 エメラが懐妊したのだ。

「ありがとうございます、アディ様。嬉しいです……」

 エメラも感謝の言葉を返した。
 罪悪感や不安を抱えたままでは、きっとこんな喜びは味わえなかった。
 心から幸せだと思える、この時をくれたアディへの感謝が涙と共に溢れてくる。
 アディに抱かれている背中から感じる体温が、今ではとても逞しくて安心する。
 魔獣王に愛される喜びと誇りを全身に感じられる。

「おめでとうございます、アディ様……」
「あはは、何それ。めでたいのはエメ姉でしょ」

 アディの膝の上にいるエメラは正面を向いて座り直す。
 アディと向かい合うと、改めて抱き合って唇を重ねる。



 アディが正式に魔獣王となり、エメラも懐妊して、これで結婚に必要な条件は全て揃った。
 エメラが魔獣王の王妃となる日は近い……と思われた。

 その前に、実はまだ、やるべき事と問題はいくつか残っている。