魔獣王の側近は、ヤンデレ王子の狂愛から逃れられない

 魔獣のクルスの背にも羽根がある。アディの考えがまとまる間もなくクルスも飛び上がり、今度は空中から攻撃を仕掛けようとしてくる。

「おっと。下手に攻撃したら殺しちゃうしなぁ。僕、強いから」

 アディは攻撃を避けながら嫌味を言うが、今のクルスは言葉を理解していない。
 その時、地上から声が聞こえてきた。見下ろすと、ディアが片手をアディに向かって伸ばして叫んでいる。

「アディ!! 今こそ最後の『禁断の魔法』を伝授します。 さぁ、受け取るのです!!」

(父さん……? 禁断の魔法の伝授って……?)

 考えるよりも早く、アディは素早く降下してディアの前に降り立つ。

「父さん……」
「これはアディが魔獣王になるべき時に伝授する魔法です」
「え? それって……」

 ディアが今、この魔法をアディに伝授するという事の意味は、ただ1つ。
 ディアはアディの瞳を見据えて頷く。

「この魔法と共に、私は王位をアディに譲ります」
「僕が……魔獣王に?」

 ディアがアディに王位を譲る。つまりアディが正式な魔獣王として王位を継ぐという事。
 突然の王位継承にアディは呆然としている。……が、それも一瞬の事。
 魔獣のクルスが降下して地面に着地した事で地面が振動で揺れ動く。これ以上は話す時間がない。
 ディアは握手を求めるように片手をアディの前に差し出した。

「さぁ、アディ!」
「うん」

 アディはその手を握り返す。すると二人の体が同時に同じ魔力の光に包まれていく。
 ディアからアディへ、父から息子へと。魔力を伝導させる事で魔法を伝授する。
 言葉はなくとも、アディの心には情報が、そして体には魔力が取り込まれていく。
 それは、ほんの数秒の伝授の儀式。
 光が収まって手を離すと、アディは自分の中に今までにない力が漲っている事に気が付いた。
 アディが顔を上げると、ディアが無言で頷く。

「ありがとう、父さん」

 背を向けて再びクルスに向かっていくアディの背中には、新たな魔獣王としての威厳と逞しさを感じる。
 その背中を見送ったディアは、自分が魔獣王としての役目を終えた安堵と、今後は安心してアディに任せられるという思いで微笑んだ。